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マスター・ナオキの怪店日記
第10章 3人目の幽霊様
「お客様の身なりを見ていると、普通のサラリーマンではなかったのではないかとお見受けするんですが、どんなお仕事をされていたんですか?」
「おお、マスターは感がいいねえ。そうなんだ、私はバンドマンだったんだよ」
「へえ!バンドマンですか」
「ウッドベースが私の担当だった。5年前、87で死ぬまでずっとライブハウスのステージに立っていたんだよ」
「えっ!87?全然見えないですよ」
 とても87歳という老人には見えない。シャキッと伸びた背中のせいだけではない。端正な顔立ちも影響しているのだろうが、シワがほとんどないつるりとした肌が、若さをかもし出しているのは間違いない。
 驚きの声を発した尚樹に対して男は、胸に右手を当てて頭を下げた。
「ずっとステージに立ち続けていたことが若さの秘訣なんだろうね。自分でも生涯現役を貫けたことは誇りに思うよ」
 キラキラと光を放つグラスを宙に掲げ、私に乾杯、と呟いた男。この男がステージでライトを浴びている姿を見てみたかった、と尚樹も目の前のグラスにバーボンを注ぎ、そして静かに掲げた。
「87歳までお元気でいらして、で、何が原因であの世へ?」

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