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マスター・ナオキの怪店日記
第11章 4人目の幽霊様
いらっしゃい、と声をかけた一番乗りの客は、三島さんだった。
「だんだん日が伸びてきたねえ」
「そうですね、もう3月も後半に入りましたからねえ。このまえ正月が明けた、なんて言ってたのにもう桜の開花は目の前なんですからねえ」
一本隣りの通りは桜並木が続いていて、花が咲きだすと狭い通りに人がわんさか行きかうようになってくる。軒を連ねる飲食店は忙しさが凝縮され、店で働く店員たちが尚樹の店に息をぬきにやって来るようになるのが、春の風物詩のようになっている。
「桜かぁ。よく妻と野毛の山に花見に行ったっけなぁ」
この人もきっと、もっとやっておけばよかったなの仲間なんだろうな。
三島さんの普段と変わらぬ静かな笑顔をちらりと見てから、おしぼりとコースターをカウンターに置いた。