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マスター・ナオキの怪店日記
第11章 4人目の幽霊様
三島さんと長澤夫妻の話をした夜に、例によって霊のお客様ご来店かと心構えをしていたのだが、あの日は来なかった。
たいてい長澤夫妻の事を想う夜にはいつものパターン通りになっていたが、そうではなかった。
まあそんな日もあっていい。
尚樹は淡々と「生ある客」と向き合う毎日を送る。
そんな中、いつの間にか桜が花開き、風にのって花びらが舞い踊るようになった夜、突然のご来店があった。
その夜は閉店時間近くまで何人もの客がいた。
金曜の夜だからか。たまにやって来るサラリーマンの二人連れ、カップル、老若男女取り混ぜたグループや一人客。
思い思いに酒を楽しみ、そろそろ店が閉まると気にかけだした客から腰を上げていく。
最後の客を送り出したのは、夜中の1時まであと10分という時だった。
「ありがとうございました、おやすみなさい」
尚樹の挨拶に振り返って手を振るサラリーマン二人連れの姿が小さくなってから店の中に戻ろうとドアを開ける。すると、尚樹の背中が女の声を受け止めた。
「ねえ、まだやってる?」
振り返ると、長い髪が緩やかにカールされ、少し濃いめの口紅を塗った若い女が、尚樹に向かって艶のある笑顔を向けていた。