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第2章 保険外交員　水瀬祐希

水瀬祐希は後日保険の見積書を数パターン木原に渡しにきた。
比較検討しやすいように保証内容を変えたもので丁寧に冊子に閉じられていた。
透き通った声で内容の説明を始める。時折彼女の香水の匂いがふわっと鼻をついた。

祐希「ご検討よろしくお願いいたします。」

一通り説明を終えると彼女はそう言って立ち去っていった。

コツコツと小気味よいヒールの音が耳から離れなかった。

木原は彼女が作った見積書を眺め横縞な計画の算段をする。
受け取った見積金額は一般的なサラリーマンが支払っていける常識的な金額だ。
当然彼女は木原のことは普通のサラリーマンだと思っているので標準的な提案をしているに過ぎない。

これが何倍の金額を支払えば特別な顧客になるんだろうかと木原は考えた。彼女が提案してきている収入保障や医療保険、生命保険を全て入るのは当然として、さらに彼女がどうしても契約を取りたいと思う額はいくら位なのだろうかと考えた。
中途半端では簡単に受け流されてしまうだろう、彼女の方が何枚も上手なのだから。

一晩中考えた末、次の日の昼休みに木原は水瀬祐希に電話をかけた。

『はい水瀬です。』
相変わらず聞き心地のいい声だ。

「木原です」

『木原さん、お世話になります。昨日はありがとうございました。』

「こちらこそ。で、保険のプランの件で相談がありまして」

『ご検討いただきありがとうございます。どういったご相談ですか？』

「色々相談したくて、できれば直接お聞きできないですか？今日にでもお願いしたいのですが」

『承知しました。申し訳ありませんが、あいにく今日は別件があり、御社にお伺いできないのですが、、』

木原の予想通りだった。彼女の定期訪問スケジュールは大体把握している。

「あっそうなんですね。なんとかならないですかね、、？」

少々強引だが、顧客対応が完璧な水瀬祐希だったら何とかスケジュールを調整するはずだと木原は踏んでいた。
そしてその通りの回答がきた。

『それでしたら、、、就業後にはなってしまいますが、18時頃でよろしければお伺いできるのですが、いかがですか？』

「ありがとうございます。18時大丈夫です。」

あまりに上手い流れに木原は笑みを隠す事ができなかった。