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透明なリーシュに結ばれて
第3章 再び
 僕は病院での出来事、里奈との出会いについて、山名や権藤だけでなく、誰にも話していない。話したところで、その時点で僕は大嘘つきになってしまうからだ(もちろん僕は嘘などつかない)。そもそも僕は、里奈とのことを誰かに信じてもらおうなどとは思っていない。
 残念ながら僕と里奈のあれこれはスマホなどの記憶媒体にはどこにもなくて、僕に頭の中だけで存在している。それでいい、僕はそれで満足している。
 里奈のことを忘れようとは思わないし(里奈ことを忘れるなんて、多分それは不可能だ)悲しいかな里奈を追いかけようとも思わない(断っておくが僕はストーカーではない)。
 このまま過ごすことさえできれば、僕はそれでいいのだ……おそらく。
 もてない僕でも、きっといつかどこかで誰かと出会う(希望的観測だが)。その人を好きになってセックスをする。その人と結婚するかもしれない。そして子供が生まれる。家族の為に会社に行く。妻のためそして子供の成長を楽しみにしながら僕は働く。僕はそういう人生を歩んでいくに違いない。頭の中にあるアルバムだけは家族には見せることができない(もちろん見せる必要なんかないのだが)。里奈との思い出。
 とてもとても濃密な記憶。里奈の香り、里奈の手と口。そして秘穴の締まり具合。その感覚だけはどうしても僕から出て行こうとしない。いや、僕はそれに縋って生きているようなものだ。僕の初体験。
 里奈のことを帆夏に話してしまった。もてない自分でもそういう人がいたということを帆夏に知って欲しいからではない。もちろん自分を飾ろうとしたわけでもない。どういうわけか話の流れを止めることができなかったのだ。
 帆夏に信じてもらえるはずがない。きっと「ふふふ」と笑って「翔君のお話とても面白かったわ」と帆夏は言うに違いない。それでいい、そういう風に流してもらえればそれでいいと思った。
 ところが帆夏から笑い声は聞こえない。僕が予想した帆夏の台詞も言ってもらうことがなかった。瞬間重い空気が僕を覆った。
 帆夏に目をやると、帆夏が僕をじっと見ていた。感情の抜けた能面のような帆夏の顔がこちらを向いている。きっとずっとずっと見ていたのだろう。
 帆夏は美人だ。いい女だ。でもそのときの帆夏は怖かった。
 
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