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透明なリーシュに結ばれて
第3章 再び
僕は言ってはいけないことを言ってしまったのだ。調子に乗ったわけではない。話の流れのせいにしたくはないが、どうしても行きつく先は里奈のことになってしまう。里奈のことを口に出した自分を殴りたい。
帆夏はじっと僕を見ている。あり得ない話をした僕に絶望しているのかもしれない。
「ごめんなさい」
帆夏には嫌われたくない。
「……」
帆夏は無言のまま僕を見ている。
「変な話をしてすみませんでした」
僕は帆夏に頭を下げて謝った。
「場所はY温泉よね」
「えっ?」
「翔君が里奈さんに会った場所」
「はい」
「一時間じゃ無理か」
帆夏は左手首に巻いているカルティエを見てそう言った。一時間、そしてそれが無理、何となく帆夏が言う意味が僕にはわかる。
「……」
何かが起こる予感。悪くない予感だ……でも。
「大学は授業ないでしょ」
「はい」
「バイトは?」
「明日はスポーツジムでバイトがあります」
「休めない?」
「はっ?」
「誰かに代わってもらうとか、できないの?」
「できます」
僕は帆夏が要求する答えを言っている。
「じゃあ代わってもらって、いいわよね」
「あっ、はい」
帆夏の表情はとても硬くて、僕にやって来る帆夏の視線に冷たいものを感じる。ひょっとしたら瞳の奥に小さな氷の塊を忍ばせているのかもしれない。
それでいいのだろうか?
「何?」
「僕の話したこと、信じてもらえたんでしょうか?」
「信じるわ」
能面の表情を崩さずに帆夏はそう言った。
「……」
「まさか、嘘を言っていたとか」
「違います!本当の話です」
「ガソリンを満タンにして出かけるわ。急げば今日中に着くと思う」
「いいんですか?」
「何が?」
「家で旦那さんが待っているんじゃないですか?」
「待ってなんかいないわよ」
このとき帆夏の表情が変化した。緊張が解かれたみたいに柔らかくなったのだ。
「翔君はそんなこと心配しなくていいの。とにかく早く行きましょ」
「はい」
「私ね、翔君が言った里奈と言う人に会ってみたいの。翔君の大切な人にね」
「……」
会えるはずなんかない。だって里奈はもうこの世にはいないのだ。でも僕にはそれを帆夏には言えない。だから僕は無言のままでいた。
帆夏はじっと僕を見ている。あり得ない話をした僕に絶望しているのかもしれない。
「ごめんなさい」
帆夏には嫌われたくない。
「……」
帆夏は無言のまま僕を見ている。
「変な話をしてすみませんでした」
僕は帆夏に頭を下げて謝った。
「場所はY温泉よね」
「えっ?」
「翔君が里奈さんに会った場所」
「はい」
「一時間じゃ無理か」
帆夏は左手首に巻いているカルティエを見てそう言った。一時間、そしてそれが無理、何となく帆夏が言う意味が僕にはわかる。
「……」
何かが起こる予感。悪くない予感だ……でも。
「大学は授業ないでしょ」
「はい」
「バイトは?」
「明日はスポーツジムでバイトがあります」
「休めない?」
「はっ?」
「誰かに代わってもらうとか、できないの?」
「できます」
僕は帆夏が要求する答えを言っている。
「じゃあ代わってもらって、いいわよね」
「あっ、はい」
帆夏の表情はとても硬くて、僕にやって来る帆夏の視線に冷たいものを感じる。ひょっとしたら瞳の奥に小さな氷の塊を忍ばせているのかもしれない。
それでいいのだろうか?
「何?」
「僕の話したこと、信じてもらえたんでしょうか?」
「信じるわ」
能面の表情を崩さずに帆夏はそう言った。
「……」
「まさか、嘘を言っていたとか」
「違います!本当の話です」
「ガソリンを満タンにして出かけるわ。急げば今日中に着くと思う」
「いいんですか?」
「何が?」
「家で旦那さんが待っているんじゃないですか?」
「待ってなんかいないわよ」
このとき帆夏の表情が変化した。緊張が解かれたみたいに柔らかくなったのだ。
「翔君はそんなこと心配しなくていいの。とにかく早く行きましょ」
「はい」
「私ね、翔君が言った里奈と言う人に会ってみたいの。翔君の大切な人にね」
「……」
会えるはずなんかない。だって里奈はもうこの世にはいないのだ。でも僕にはそれを帆夏には言えない。だから僕は無言のままでいた。