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透明なリーシュに結ばれて
第4章 宿
 高速を降りると見覚えのある風景が目に飛び込んできた。ほんの数週間、そのほとんどを病室で過ごした身でも、この町だけは僕の記憶から消えることはない。
 もちろん帆夏の車にはナビもついているが、それに目をやる必要など全くない。「ここを真っすぐ」「右に曲がってください」「あの信号を左折です」僕の言葉の方がナビよりも説得力がある……と思う。その証拠に帆夏はナビには目をやらず、僕の言葉通りに車を進めた。
 見えた。町唯一の総合病院。僕の頭の中にある病院と全く同じ。病院と共に嫌味な看護師も思い出してしまった。確か……足立看護師? だったろうか。彼女の皮肉さえも里奈の出現で僕はやり過ごすことができた。
 スキー場を持つY温泉もその中心街はそう大きくはない。新幹線の駅を中心に、町はとてもコンパクトにできている。インターから五分ほど走って車は病院に着いた。
 病院の敷地に車を入れずに、車を車道に止めて帆夏と僕は車を降りた。
 腕組みをして帆夏は病院を見ている。真剣な目は瞬きを忘れている。だから僕は帆夏に声を掛けることができない。今の帆夏は外部からの情報を一切受け付けていないように見えた。というかそういうものを拒否している。
 病院を見ていると複雑な気持ちになる。里奈に近づくことができたという喜びと、帆夏と一緒にいることの気まずさ。
 ずいぶん時間が経ったような気がする。そのとき帆夏が病院に目を向けたまま「笑っているわ、むかつく」そう言った……ような気がした。いや、間違いなく帆夏はそう言った。
 静寂の中、帆夏の声が暗く響いた。
 帆夏を見ると、帆夏の氷のような冷たい目が何かと対峙していた。
 そして数分後。
「温泉ね」
「……」
 帆夏の言った意味がわからない。
「せっかくY温泉に来たのよ。温泉に入らなきゃ」
「……」
 まだわからない。
「翔君、温泉嫌い?」
「好きです」
 温泉は好きだけど、でもわからない。
「じゃあ行きましょ」
「……?」
「車に乗って」
「……」
 言われるまま僕は帆夏の車に乗った。
「シートベルト」
「あっ、はい……どこに行くんですか?」
「ホテルだけど」
「ホテル!」
 声が大きくなるに決まっている。この「ホテル」という単語。男を迷わすワード。
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