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透明なリーシュに結ばれて
第4章 宿
「ホテルじゃなかったら旅館。だってそこじゃないと温泉に入れないでしょ」
「泊るんですか?」
「そのつもりだけど」
「いいんですか?」
「何が?」
「何がって……ご主人とか……」
「構わないわよ」
「……」
「それともどうしても帰りたい?」
「帰りません!大丈夫です!温泉入ります!」
「ふふふ。でもエッチとか期待しないでね」
「きたい……期待しません!」
 どこかで期待していた。でも心の中の声は帆夏に聞かせられない。僕は帆夏の前では好青年でなければならない。そう、僕は好青年なのだ。たとえ好青年でなくとも、僕は好青年を演じる。
 東京を出る前に、帆夏は僕の明日のスケジュールのことを訊いてきた。だからこちらで泊まるということだって十分考えられたのだ。彼女がいない僕はこういうシチュエーションに疎い。弁解するわけではないが、僕には免疫がない……ではなく経験がない。
 でも問題は宿泊できる宿があるかということだ。ここは温泉地、ビジホもラブホもここからは遠い。そうでない宿泊施設が深夜の十一時前に予約なしの客など受け入れるはずがない……と思う。
 帆夏はスマホでホテルを探している。でもすぐに見つかったようだ。車が走り出す。もう一度言う。ここY町は観光客にも実にコンパクトにできている。五分もかからずにホテルに到着した。
 帆夏はホテルの正面に車を止めた。
「少し待ってて」
 帆夏はそう言ってホテルの中に入っていった。
 予約なしで宿泊できるような雰囲気のホテルではない。外観は優雅でエレガント(つまり僕には似合わないホテルだということ)。断られたらどうしよう。僕は不安になった。
 数分後帆夏がやって来た。
「あの」
「ラウンジのソファに座って待ってなさい。私は車をホテルの駐車場に止めてくるわ」
 帆夏に言われたように、僕はホテルに入りソファに座った。フロントには二十代くらいの男女二人がいて、僕を見ると軽く頭を下げた。
 二人の目は明らかに僕の素性を探っていた。
「翔、部屋のキーを貰って」
「はい」
 呼び捨てにされたのが少し恥ずかしかった。
 エレベーターに乗る必要はなく、帆夏と僕は入口右にある廊下を歩いて「夏」と書いてある部屋に入った。
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