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透明なリーシュに結ばれて
第1章 始まり
「お前まだあのこと根に持ってんの?」
 山名はメニューをパラパラ繰って、僕に目も寄こさずそう言った。
 僕たち三人は、地元のカフェバー、コークスクリューに来ている。週末の湘南、テーブルを男三人で囲んでいるのは悲しいかな僕たちだけだ。
「もういい加減許してくれよ」
 権藤の目も僕ではなくメニューに向かっている。
 友情なんて、真夏の氷と同じだ。誰かに陽が当たれば、一瞬で溶けて水になり消えてしまう。僕はそれを去年の冬に学んだ。
「許すも許さないも、俺はお前たちを信用していない」
「ああ、もうどうでもいい。腹が減ったんだ、飯食って東京に帰って風俗行くぞ」
「バカ、声がでかいよ。聞かれたらまずいだろ」
 山名が権藤にそう言って制した。
「結局俺たち三人の行きつく先は風俗になるんだ。はぁ」  
 僕が溜息をついたら、山名と権藤も僕に続いて溜息をついた。
「いらっしゃいませ」
「……」
  僕と山名と権藤の三人はメニューを手にしたまま声の方に顔を向けた。そして五秒ほど現実の世界を強制退場させられた。僕たち三人は息することも忘れてぽかんと口を開けていた、に違いない。つまり僕達三人は、五秒間間抜け面を声の主に晒していたのだ。
「どうかした? 食事より頭の中はもう風俗のことで一杯?」
「……」
 金髪のショートヘアがとてもよく似合っている。目はアニメのヒロインのように大きく、鼻筋も通っていた。ピンクのルージュが唇を厭らしく輝かせている。上唇がほんの少し捲れているのがとてもエロチックに感じた。完璧なのは顔だけではなかった。薄いブルーのTシャツが、大きな胸ではち切れそうで、ダメージデニムがすらりと伸びた脚をさらに長く見せた。
 見てはいけない、見たら男の獣の部分がばれてしまう。そうは思っても自然と僕たち三人の目は、巨乳に引き寄せられた。
「何を食べるか? そんなことより、誰を指名するかで迷っていたの?」
「違います。風俗はこいつが行くんです」
 そう言って山名は僕を指さした。また裏切られた。
 だが、人生悪いことばかりではない。大きな目は僕の方にやってきた。
「それじゃあ、このお店でたくさん食べてね。おすすめはハンバーガー、それにビールを合わせる。もちろんノンアルコールもあるわよ。主人が作るハンバーガーはきっと君たちを裏切らないわよ」
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