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透明なリーシュに結ばれて
第5章 愚か者
 勝利は間近だ。僕は帆夏に手を伸ばしながら飛びついた。帆夏を捕まえた……はずだった。そして帆夏の左右どちらかの乳首を口の中に入れて狂ったようにおしゃぶりしている……はずだった。
 繰り返しになるがもう一度言う。僕はスポーツなら何でもできた。足が速いおかげで僕は運動会のヒーローにいつもなっていた。水泳だって水泳部員よりも僕の方が速かった(50メートル自由形だけだが)。鉄棒、跳び箱、前転、後転、体操関係もすべて僕がクラスの手本だった。ソフトボール大会では四番が僕の指定席、ドッジボール大会ではチームのキャプテンに僕が選出されるのが当たり前だった(でも女の子にもてたことが一度もない)。
 が、……一つだけこれに加えておかなければならないことがある。スポーツが得意な僕でも格闘技の経験が全くなかったのだ。格闘技を暴力のように感じていたせいもあるが、僕はそういった競技には近づかなかったし、今でも興味はない。
 幸い高校では柔道の授業がなかった。それに殴り合うなんて僕にはできない。僕は痛みに弱いアスリートだ。
 で、僕は帆夏に手を伸ばした。伸ばした手は右手。この右手で僕は帆夏を……。
「痛っ!」
 激痛がした。激痛は僕の右手からやってきた。どうしたんだ? と自分に問いかける時間もなかった。目の前にいるはずの帆夏がいない。そして僕の右手はどういうわけか僕の背中の方にあるのだ。そしてしっかりロックされている。誰に? ここにいるのは僕と帆夏だけ。そうなのだ、僕の右手を掴んで格闘家の関節技みたいに僕の右手を決めているのは帆夏しかいない。
「痛いです!ギブです!」
 僕がそう叫んでも関節技は解かれない。
「まじで痛いです!勘弁してください!」
 痛みは続く。ここにレフェリーはいないのか!と大声を出すのは我慢した。
「死にそうです!やばいです!ギブします!参りました!許してください!」
 僕は湯舟を左手でタップした。痛みがスーッと消えていく。どうやら僕は許された……いやいや許されてはいない。ただ関節技が解かれたにすぎないのだ。
 温泉宿の露天風呂における間違った使用例。湯舟はリングではない。
 僕は痛みから解放されると、帆夏に背を向けたまま帆夏がいる反対側からリングを出た。もとい湯舟から出た。
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