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透明なリーシュに結ばれて
第8章 思わぬ展開
 ふと気付いた。いや、もっと早く気付くべきだった。一分という時間は誰が計っていたのだ。僕ではない。僕は相対性理論と格闘していたのだから。じゃあ帆夏? ならば帆夏はどうやって一分を計っていたのだ。
 何となくという感覚? それでは僕と競技委員会(きっとそういう機関はあると思う)が黙っていない。ここは抗議しなければいけない場面だ。
 風呂を出て僕と帆夏は今ベッドルームにいる。僕はまた気付く。いい女はたとえ化粧を落としてもいい女だ。犯りたい。こんないい女を犯したい。
「あの、一つ質問していいですか?」
「何?」
 帆夏は布団に潜り込んで僕に背を向けている。
「一分は誰が計っていたんですか?」
「私」
「ストップウォッチとかないですよね」
「ありません」
「じゃあどうして一分がわかるんでしょうか?」
「私だからわかるの。おやすみなさい。それと私を今度襲ったら次は容赦しないから。以上」
「わかりました」
 あっけなく抗議終了。
 そして数時間後、僕は目を覚ますことなく眠り続け、爽快な朝を迎えたのだ。夢なんか見なかったし(つまり僕はあの人に誘われなかった)、だから獣の欲望に心が傾くこともなかった。
 朝食のとき、僕が何かの魔物に変身するのではないかという目で帆夏はずっと僕を見ていた。幸いなことに僕は僕で、何か妙なものになることはなかった。
 そして東京に帰るまで、帆夏は一言も話さなかった。いや、出発前に一言だけ僕にこう言った「おしっこした?」。僕は犬ではない。
 別れ際、帆夏は僕にもう一度念を押した。
「幽霊の誘いには絶対にのらないように。勃起したら私のおっぱいを想像して自分で抜きなさい。わかった?」
「はい」
 多分僕は帆夏のおま×こも想像するだろう。
「よろしい。それじゃあまたね」
「はい」
 ん? それじゃあまたね……ってどういうこと?
 僕は去っていくBMWの後姿を眺めていた。後姿が見えなくなっても僕はBMWがいなくなった道路を眺めていた。
 そして、よっしゃー!と僕は雄たけびをあげた。
 僕には天から降りてきたクモの糸がまだあった。風に揺られて千切れそうな透明の糸だが、僕にはその糸がしっかり見える。チャンスはまだある。バイト行くのが面倒だが、帆夏とはまだ終わっていないと思えばなんとかがんばることができる。
 でも誘いは妙な方向からやって来たのだった。   
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