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透明なリーシュに結ばれて
第8章 思わぬ展開
 声を掛けられたのは僕の方だった。アルバイトが終わり、僕は駅に向かって歩いていた。
「坂口君」
 そう聞こえたが、僕はその声を無視した。空耳かもしれない。
「○○高校でバスケット部だった坂口君じゃない?」
「……」
 間違いない。○○高校で僕はバスケットをしていたし、名前は坂口だ。声の方を振り向くと眼鏡を掛けた中年の女が立っていた。女は濃い青のブラウスにベージュ色のロングスカートを穿いていた。手には茶色のトートバックと○○百貨店の紙袋を提げていた。
「私なんか覚えてないわよね」
「下田先生ですか?」
「覚えててくれたの。なんだかうれしいわ」
「高校時代はお世話になりました」
 僕だって人並みに挨拶くらいはできる。ちょうど一週間前に僕はこの女を思い出していた。相対性理論について考えていたときに下田のことが頭を過った。
「大学はR大学よね」
「はい。でもどうしてそれを」
「あなたは有名人だもの」
「有名人?」
「東北の大学からのスポーツ推薦をけって、受験でR大学に入ったでしょ。進学校じゃないうちの高校からR大学なんていけないもの。がんばったわね」
「先生方のお蔭です」
 僕はお世辞も言えるようになった。
「ふふふ、ありがとう。坂口君はこれから帰るの? それともデート?」
「残念ながら僕にはデートする相手がいません。先生はこれから?」
「主人は出張で娘は部活の合宿で二人とも家にいないの。だから久しぶりに美味しいものでも食べて帰ろうかなと思っていたの」
 なぜか下田とこのまま別れたくなかった。
「僕、美味しい店知ってます」
 とっさに僕はそう言った。美味しい店なんて僕が知ってるはずがない。
「そうなの? だったら案内してもらおうかな」
 僕は下田を連れて居酒屋に入った。下田がそこの料理を気に入ったのかはわからないが、味はまずまずだったと思う。
 地味で暗い教師だと思っていたが、下田は僕の高校時代の話や自分の趣味の話を僕にしてくれた。酒が入ったせいか下田はとても陽気だった。
 そして僕は、下田の目が一瞬妖しくなったのを僕は見逃さなかった。男を誘う淫靡な目。店を出て僕は下田を抱きかかえながら駅ではなくホテル街に向かった。下田がつけている香水の匂いがした。僕のペニスは硬くなり始めた。下田は嫌がることなく僕と一緒にラブホに入った。
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