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透明なリーシュに結ばれて
第2章 約束
 翌週僕はまた湘南にやってきた。山名と権藤はサーフィンを諦めたが、僕はまた波に乗りたかった……というのは半分嘘で、帆夏に会いたかった。
 帆夏の中に、僕はきっと里奈を探しているのだと思う(帆夏には申し訳ないが)。帆夏に初めて会った時、里奈が帆夏に重なって現れた。帆夏が微笑む、それは里奈が微笑むことでもあった。
「いらっしゃませ。あら? 今日は一人なの?」
 帆夏はまだ僕のことを覚えてくれていた。
「山名と権藤は風俗です」
 僕は仕返しをした。
「ふふふ、翔君は誘われなかったのかな」
 帆夏は僕の名前も覚えていた。もちろん、ちょっぴり……いや、めちゃくちゃ嬉しかった。
「あの二人は裏切り者ですから」
「裏切者? 何だか面白そうな話が聞けそうね。よかったら後で教えてくれない?」
「構いませんよ。とてもつまらない話ですが」
 僕はそう言って店内を見回したが、大勢の客がいて、帆夏が僕の話なんか聞ける時間はないと思った。いわゆるリップサービスなのだろう。
 辛うじて空いているカウンターの席に連れていかれ、僕は前回と同じ注文をした。おそらくこの裏の調理場に帆夏の夫がいるはずだ。どんな男なのか会ってみたいという気持ちと、僕のどこかに潜む下心を見抜かれないために、会いたくないという気持ちが僕の中で右往左往していた。
 ハンバーガーとノンアルコールビール。相変わらず美味かった。少々店が混んでいるのが難だが、これは人気店の宿命なのだ。店の雰囲気も悪くないので、少し遠いが週に一度くらいなら通うのも悪くないと思った。ハンバーガーとノンアルコールビール、そして帆夏。
 自分で言うのもなんだが、サーフィンもテイクオフが当たり前のようにできるようになったし、ボードの上で波を感じている時間も長くなった。そして美味しいハンバーガーと帆夏。悪くない一日だった。
 食事が終わればカフェに長居は無粋だ。特にこういう人気店では気を使わなければいけない。食事を終え席を立ちあがり、会計に向かおうとした時、帆夏と目が合った。僕は軽く会釈をしたのだが、帆夏が僕に何かを伝えたいのか、大きく口を動かしているのがわかった。何度か帆夏が僕にそれを繰り返したが、残念ながら僕には読唇術がない。僕はもう一度帆夏に頭を下げて会計終え店を出た。
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