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透明なリーシュに結ばれて
第3章 再び
 デートが延長されて、それを喜ばない人間がこの世にいるのだろうか? いない、絶対にいない(多分)。僕だって君波帆夏と一分一秒でも長くいたい。もちろんそこに男としての邪な気持ちがないわけではない。とにかくデートの時間が長くなるのだ。デートが長くなれば、こんな僕でも帆夏とワンチャンあるかもしれない。
 大学も夏休みに入ると、僕が今することと言えば週に二回の塾講師のバイト。そして同じく週に二回のスポーツジムのバイト(僕はインストラクターではないので主に清掃などの雑用をしている)。それと毎日僕のスマートフォンに遠慮無しにやって来る山中か権藤からのメッセージの消去……ではなくて確認(もちろん僕は確認なんかしたくはない。どうせ酒か女の話に決まっている)。
 彼女がいない大学生の一週間なんて、残念ながら胸が躍るようなことなんか一つも起こらない。暑い夏はただ暑いだけで、ひたすら時間が過ぎ去るのを待っている。彼女がいない大学生の夏休みとは、つまりそううことだ。
 だから僕はこのシチュエーション(帆夏とのデートの延長)を歓迎すべきなのだ。でも……僕の心に何かが引っかかる。

 そもそもどうしてデートが延長されたのか? 少しだけ時間を遡ることにする。
 東京駅待ち合わせ。黒のBMWで颯爽とやってきた彼女を、僕は口をぽかんと開けてただ見ていた。口をぽかんと開けていたのは僕だけではない。周りにいた人たちも男だけでなく女も、帆夏と僕を見比べて、そのアンバランスな取り合わせに戸惑いと好奇の目を向けた。 
 白のデニムにブルーのブラウス。その日は曇りであったが、たとえ車内でも日焼けは絶対に許さない、だから帆夏はブラウスの上に紫のカーディガンを羽織っていた。そして目にはフレームの大きいサングラス。やばいくらいすべてが似合っている。
 車の運転が趣味だと言っていた帆夏の足元を見ると、靴はナイキのエアフォースワンを穿いていた。
 黒のM2は奥多摩に向かってエンジンを響かせた。それにしても車内は帆夏が纏う上品なコロンの匂いが漂っている。ここがもし天国なら、僕は今死んでも構わない。本当にそう思った。
 僕の人生で最高の夏が始まる……そういう予感がした……この時だけは。
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