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透明なリーシュに結ばれて
第3章 再び
 帆夏は奥多摩までドライブすると言った。帆夏とならどこへ行っても構わない。
 プロレーサー並みにハンドルを操る帆夏の目は、フロントガラスの向こうの風景から離れない。僕はそれをいいことに、ずっと帆夏の横顔を見ていた……。正直に言う、帆夏の横顔と豊満なバストを交互に見ていた。僕の目は乱れることなく横顔からバスト、バストから横顔を行ったり来たりしていたのだ(帆夏にはバレていないと思ったが、しっかり僕のその所業はバレていた)。
 そんな帆夏は僕に途切れることなく質問を浴びせた。帆夏のそれは、取調室の刑事みたいで、僕は訊かれていないことま思わず話してしまった。大したことのない僕の個人情報なんてどうでもよくて、それに帆夏が僕の話したことをすべて覚えてるはずなどないわけで、僕は僕のすべてを話したことを特に後悔などしていない。それどころか話すことで僕と帆夏の距離が少しでも縮まるような気がしたのだ。ところが、帆夏は僕の話したことをすべて記憶していたのだ。僕の身長体重だけでなく、僕が中学二年生のときにふられた相手の名前までしっかり覚えていた。
 奥多摩について僕たちは早めの昼食をとった。インスタには永遠にあがることのないような小さな店ではあったが、僕と帆夏が食べた天ざるはなかなかのものだったと思う。客は僕と帆夏の二人。
 だから店の主人とおかみさんみたいな人が僕らの近くの席に勝手に座って、僕と帆夏にあれこれ質問を繰り返した。正確に言えば帆夏だけに質問をしたのだ。
 主人もおかみさんも六十代(おそらく主人の方が二つか三つおかみさんより上だと思う)。
 彼らにとって気になるのは帆夏だけで、時折僕に寄こす視線も気のないものだった。
「綺麗ね。この店に来てくれた一番の美人さんよ」
 と、おかみさん。
「ひょっとしてモデルさん?」
 と、ご主人。
「違うわよ、女優さんでしょ」
 またまたおかみさん。
「テレビじゃどんなドラマに出てるんだい?」
 そしてご主人
「それにしてもスタイルいいわよね。胸も大きいし」
 おかみさん、にんまり。
「だな」
 ご主人もにんまり。
「あんたジロジロ見ないでね。セクハラになっちゃうわよ」
 ご主人の厭らし目を見ておかみさん。
「ふふふ」
 これは帆夏の笑い。
 こんな感じの昼食。僕にとっての救いは帆夏がいるということと主人の作った天ざるだった。
 
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