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透明なリーシュに結ばれて
第10章 瓦解のとき
 夏休みも終わり、秋学期が始まった九月の終わり。順風満帆(もちろん僕として)に時が流れていた。
 下田と文子の二人を僕は手に入れたのだ。僕の性欲が抑えきれなくなったときは、ありがたいことに下田か文子のどちらかが僕の性欲の捌け口になってくれた。二人とも僕にはドンピシャの女だ。熟した女の体の柔らかさ。熟れた女の肌の匂い。僕は下田と文子に酔っていた。
 そんなとき……。
 僕のスマホが着信音を鳴らした。画面を見る。その電話は帆夏からだった。少しだけドキリとする。
「元気?」
「はい」
「来週時間が取れない?」
「いつでも大丈夫です」
 帆夏の誘いを断るなんてことは僕にはできない。
「だったら日曜日でいい?」
「はい」
「この前の待ち合わせ場所覚えてる?」
「東京駅ですよね」
「そう。十一時に迎えに行くから」
「わかりました」
 必要最小限度の会話。それでもめちゃめちゃ嬉しいはず……なのにそうでもない。正直帆夏に会うのは怖い。
 下田や文子のことが帆夏にばれるはずなどない……が、帆夏は何でも見通す力がある……ような気がする。僕は身体的(Y温泉で僕は帆夏にねじ伏せられた)にもそういう霊的? な部分でも帆夏には叶わない。
 帆夏に会えるなんて飛び上がるほどに嬉しいはずなのに、後ろめたさが僕を憂鬱にした。
 約束の日、約束の時間、さっそうと現れる黒のBMW。そして注目を浴びる僕……ではなく帆夏。
 BMWの助手席。高級車の安定感、ゴージャスな室内、パワフルなエンジン音、それを操るめちゃくちゃ綺麗な帆夏。僕が生涯かけても手に入れることができない高嶺の花。
 車は東京駅を出ると首都湾岸線から東京湾アクアラインに入っていった。どうやら帆夏は千葉方面に向かうつもりのようだ。
 帆夏に向かって「どこに行くんですか?」とは訊けない。帆夏とならどこまでも行く覚悟が僕にはある。
 車内ではほぼ会話無し。
 一時間半ほどで車は目的地に着いた。何でも帆夏の御主人が贔屓にしているビーチがこの近くにあるのだそうだ。アメリカの西海岸にありそうな洒落たお店が見えた(アメリカには行ったことがないが)。
 おしゃれなカフェレストランの駐車場はほぼ満杯。日曜のお昼、空いてる店を見つける方が難しい。
 どうにか空いたスペースに車を止めた。駐車場に止められた車の数からして店内の込み具合がわかる。
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