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透明なリーシュに結ばれて
第10章 瓦解のとき
 僕は帆夏から逃げるためにパスタを思いきり頬張った。
「うま……でも熱い」
「落ち着いて食べなさい。火傷するわよ」
「はい」
 僕はパスタを頬張ったまま返事をした。
 パスタを半分食べたころだった。
「ところであの女は翔君の前に現れた?」
「……」
 僕はパスタを口に入れたまま首を横に振った。
 いろいろなことが見通せてもあの女、つまり内田里奈については見通すことができないようだ。
「この前も言ったことだけど、あの女の言うことにのっちゃだめ。徹底的に無視しなさい。でないと」
「僕も向こう側に行く?」
「そう、その通り。今付き合っている翔君のいい人に会えなくなるわよ」
「……」
 僕はグラスの水を半分くらいまで一気にごくごくと飲んだ。
「元気な翔君の姿が見えなくなるなんて寂しいわ」
「寂しい……」
 僕にもまだチャンスあるんじゃないか。
「特別な意味はないけど」
「特別な意味はない……」
 撃沈。
「とにかく、負けそうになったら、今翔君が付き合っているおばさんたちに電話することね」
「……」
 付き合っているおばさん……。胃の中に入ったパスタがリバースしそうになった。
 ばれている。僕が熟女好きだということが帆夏に見抜かれている。おばさんたちに電話して……それから、僕の性的な部分の処理を下田や文子に頼めと言うことなのだろう。
 それから僕と帆夏は取り留めのない話を続けた。それらの多くは僕に関することで、だから大学のことだとか、バイトのこと、そして僕の趣味について、ちょっとだけ友人の山名や権藤についてだった。
 話していてわかったことだが、僕にはこれだという趣味がない。サーフィンもスノーボードもするが、それを趣味だと言っていいのか正直わからない。若いアイドルには微塵も興味がわかないし、最近流行りの音楽に至ってはちんぷんかんぷんだ。
 僕は、ジョーダン1のシカゴカラーとリーバイスの501をこよなく愛するちょっと背の高い大学生だ。成績は平凡、運動だけは得意の大学生。
 本当は帆夏のことについていろいろ訊ねたかったのだが、帆夏は見事にそういう話を避けた。そして僕は帆夏の旦那さんがどんな人なのか興味がある。だがどうしても訊くことができなかった。訊いたら訊いたで僕はきっと空しくなるに違いないが(だってかつてはプロのサーファーだったのだ)。
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