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透明なリーシュに結ばれて
第10章 瓦解のとき
 ファストフード店を出て僕たちは近くの寿司バーに行った。山名によるとその店はリーズナブルな価格で美味しいお寿司を提供してくれるらしい。
 山名や権藤に特別な何かを感じたことなんて一度もないが、こういうところだけは抜群の才能を発揮する。ただ、その才能はすべて女のため。女のために旨くて小洒落た店を探す。僕は女のためにそういう努力をしたことがほとんどない……いや、全くない。
 リーズナブル、聞こえはいいが要は山名と権藤の懐が痛まない寿司屋だということだ。だったら僕は遠慮なく食べて飲む。気の進まない合コンに僕は行かなければならない。何をどれだけ食べようがそれは僕の報酬だ。
 コース料理だったが、僕はいくつか自分のためだけに寿司のオーダーを追加した。確かに山名が言うようにすべてが旨い寿司だった。僕は僕の報酬に十分満足した。
 三人の腹が膨らみ、僕らは店を出た。そのときだった。店を出た僕ら三人の前を中年のアベックが通って行った。ドキリとした。女に見覚えがあるのだ。談笑する女の声も僕はしっかり覚えている。
 幸か不幸か女は僕に気付いていない。中年のアベックは手こそ繋いではいなかったが、楽しそうに僕らの前を通った。僕の心の中がどす黒い闇に覆われた。息をするのも苦しい。
 僕は中年のアベックの後姿をずっと追った。正確に言わなければならない。僕は女の後姿だけを追った。華奢な体、髪はもともと短かったが、目の前を通っった女のヘアスタイルはショートボブになっていた。
 闇で覆われた心の中に怒りが生まれた。誰に断ってそんなくそみたいな男(しっかり見てはいないが)と仲睦まじく歩いているのだ。誰の許可を得て髪をショートボブにしたのだ。
 許せなかった。怒りが僕の体を震わせた。
「おい翔、何してんだよ」
 権藤の声が後ろから聞こえた。
「翔、食ったことがない寿司食ってボーっとしてんじゃねぇよ。お前にギャラ払ったんだから金曜忘れるなよ」
 山名がそう言っても僕は女の後姿をずっと追った。
 女にもてたことなんて一度もない。だから僕はこういう気持ちになったことが初めてなのだ。怒りはやがて嫉妬に変わった。自分の女(少なくとも僕はそう思っている)が自分以外の男に取られた思い。
 僕の嫉妬はまた怒りに変わった。女の匂いを僕は思い出した。
 下田初子の匂いを。
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