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透明なリーシュに結ばれて
第10章 瓦解のとき
 僕は山名たちと別れるとすぐに下田に電話した。予想通り、下田のスマホは留守番電話になっていた。
 今、下田はあの男とどこかのホテルで抱き合っているのだろうか。心がざわついて思考がまとまらない。こんなときにどうすればいいのか、僕にはその経験がない。考えてもすべて無駄で意味がない。物事は自分の思うようには進まない。
 僕はなかなか寝付くことができなかった。そして翌日の授業も集中することができなくて、ずっと下田のことを考えていた。自分の大切なものが誰かに奪われたような感じ。他人の女と寝ている僕が言うのも何だが。
 授業が終わり僕はバイト先の塾に向かった。気が重かったが、二コマの授業を何とか終わらせた。塾を出た後で僕は下田に電話した。留守電にはなっていなかったが、下田は僕の電話に出なかった。だから僕は奇襲作戦を決行した。翌日、僕は下田の学校近くで下田の帰りを待った。
 作戦を開始して一時間ほどで下田が学校から出てきた。僕は少しだけ下田をつけて人が少なくなったところで声を掛けた。
「先生」
「坂口君?」
 下田は振り返ると驚いて僕を見た。
「先生」
「君ここで何をしているの?」
「先生を待ってました」
「自分が今何をしているのかわかっているの? 君、立派なストーカーよ」
「ストーカー……」
「そう、ストーカー」
「僕はそんなつもりないです」
「そんなつもりがなくても君がやっていることはストーキング。わかる?」
「……」
 わかるだけに言葉がない。
 連絡が取れない。だから相手の気持ちなど考えずに会いに行く。世間ではこれをストーカー、ストーキング行為と言う。
「何の用?」
「先生、僕が電話をしても出ないから」
「君もわかるでしょ。中間テストや学園祭の準備で忙しいの」
「……」
 何だか下田と距離ができた感じがする。
「わかったら帰ってよ」
「……」
 このまま帰ることなんて僕にはできない。
 だから僕は下田の手を掴んだ。
「何するの!」
「……」
 僕は無言で下田の手て引いた。
「痛いわ!」
「……」
「ねぇ、私をどうするつもり?」
「……」
 これから犯すつもりだとが言えない。
「放してよ!放しなさい!」
「……」
 もちろん僕は下田の手を放さない。すれ違う人間が出てくると下田の抵抗が弱くなった。男女のいざこざを誰が見ているかわからない。それは教師には̠̠マイナスなのだ。
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