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透明なリーシュに結ばれて
第3章 再び
 食事を終えて新宿に向かった。新宿に向かう道中でも帆夏の質問攻撃は終わらない。帆夏の質問は僕の大学生活についてのことがメインになった。
「好きな授業は?」
「そんなものありません」
「将来は何になるの?」
「ないです」
「じゃあどうして大学に行こうと思ったの?」
「くそジジイとくそババァがうるさいんで」
「くそジジイとかくそババァって誰のこと?」
「親父とお袋です」
「翔君、それは失礼よ。お父さんとお母さんに謝りなさい」
「はい」
 帆夏に逆らうことはできない。と言うより帆夏の前では好青年でいたい……無理かもしれないが。
「大学では何を勉強しているの?」
「経営学部で一応経営の勉強をしています」
「じゃあ将来は経営者になるんだ」
「いえ、経営者に好かれる使用人になるために勉強しているんです」
「……? ふふふ」
 僕の帆夏を笑わせる意図など全くなかったが、見事に帆夏のツボにはまったみたいで彼女はしばらく笑っていた。
 笑っていても帆夏の目は、フロントガラスに飛び込んでくる風景から離れない。
 新宿に到着。僕と帆夏はある劇団の芝居を観るために〇〇劇場に入った。テレビを積極的に見る習慣は僕にはなくて、ネットで配信される映画だってせいぜいセガールの負けない男シリーズくらいしか見たことがない。そんな僕が劇場で演じられる芝居を観たところでわかるはずがない……と思っていたのだが、意外に面白かった(もちろん隣の席に帆夏が座っていたのが一番なのだが)。
 これも帆夏のお陰。帆夏から芝居に誘われなければ、僕は生涯芝居の面白さを知らずに死んでいったことだろう。
 僕から帆夏に訊ねる機会はなかったが、それでも帆夏についていろいろなことがわかった。
 帆夏は運転がうまい。プロ並みと言っていいかと思う(プロがどれだけのものなのかは知らないが)。そして帆夏はそばをとても優雅に食べる。そう言えばそばをすする時の音を聞かなかったように思う。ずるずる、ちゅるちゅるなんて音はなかった……これは確かだ。
 意外なところに意外な人脈がある(意外とは、僕にとっての意外と言うことだ)。芝居が終わって、劇団の関係者何人かと挨拶をしていたし、話もしていた。とても優雅に挨拶をし、ごくごく自然に関係者と話をしていた。
 僕は帆夏がわからなくなった。
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