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海鳴り
第6章 海鳴り
まだ暗い空を見上げながらバス通りを渡り港を歩く。

オレンジ色の外灯が雨に濡れた地面を照らし、水溜まりの場所を教えてくれる。


「寒くないか?」

「平気です」


律子は相沢の少し後ろを歩き、頼りたくなる背中を見つめていた。

繋がれた漁船はそれぞれに大きく揺れ、船の軋みと岸壁に寄せる波音が口数の少ない二人の空気を和らげた。

奥に見えていた突堤が近づいてきた。


「律子、俺の船だ」


岸壁に横付けされた船の前で相沢が立ち止まった。


「……」


律子は船を見て相沢を見つめ、また船を見た。


「興和丸…」

「あぁ」


小さな船が波に揉まれながら、大海に漕ぎ出す姿が目に浮かぶ。


「危ない目にあったりしないんですか?」

「板子一枚下は地獄、っていうくらいだ、…いつでも気は抜けねえ、危険は付き物だからな」

「……必ず、帰って来てくださいね」

「あぁ、帰ってくる」


心配そうな律子を見つめ、相沢が頷いた。


「ちょっと待っててくれ」


そう言って船に乗り込んだ相沢は、操舵室に入り何かを持って戻って来た。


「これ、持っててくれ」

律子に差し出された相沢の手に乗っていたのは、サザエの貝殻だった。




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