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海鳴り
第6章 海鳴り
「網に掛かってきたサザエの中から一番形のいいヤツを取っておいたんだ」
握りこぶし程の巻き貝の表面は白くざらつき、ツノのような棘が欠ける事なく螺旋状に並んで貝殻を美しく飾っていた。
その内側は滑らかで、光沢を帯びて輝いている。
「きれい…」
「あんたにやる」
「いいんですか?…ありがとうございます」
律子は受け取った貝殻を耳に当ててみた。
「………」
小さな風の音がする。
海の匂いを胸に吸い込みながら律子は目を閉じた。
「海鳴りでも聞こえるのか?」
相沢が律子の顔を覗き込んだ。
「いいえ、ぜんぜん違います…」
「それなら怖くないな」
相沢はそう言うと突堤の方へ歩き出した。
海に突き出したコンクリートの道に脚を踏み入れ、沖に目を向けた相沢の視線の先に目を向ける。
「………」
水平線が紫の光を微かに放ち、ゆっくりと幕があがるように、空が黒から紺へと色を変えていく。
律子は怖くなって相沢の腕にしがみついた。
「律子、夜が明ける…」
水平線の一点から明るい光が現れた。
瞬く間に光の輪が広がり、連なっている低い雲を黒く浮かび上がらせた。
「…写真みたい…」
「俺の好きな景色だ…、写真から海の匂いはしねえだろう?」
「えぇ…」
握りこぶし程の巻き貝の表面は白くざらつき、ツノのような棘が欠ける事なく螺旋状に並んで貝殻を美しく飾っていた。
その内側は滑らかで、光沢を帯びて輝いている。
「きれい…」
「あんたにやる」
「いいんですか?…ありがとうございます」
律子は受け取った貝殻を耳に当ててみた。
「………」
小さな風の音がする。
海の匂いを胸に吸い込みながら律子は目を閉じた。
「海鳴りでも聞こえるのか?」
相沢が律子の顔を覗き込んだ。
「いいえ、ぜんぜん違います…」
「それなら怖くないな」
相沢はそう言うと突堤の方へ歩き出した。
海に突き出したコンクリートの道に脚を踏み入れ、沖に目を向けた相沢の視線の先に目を向ける。
「………」
水平線が紫の光を微かに放ち、ゆっくりと幕があがるように、空が黒から紺へと色を変えていく。
律子は怖くなって相沢の腕にしがみついた。
「律子、夜が明ける…」
水平線の一点から明るい光が現れた。
瞬く間に光の輪が広がり、連なっている低い雲を黒く浮かび上がらせた。
「…写真みたい…」
「俺の好きな景色だ…、写真から海の匂いはしねえだろう?」
「えぇ…」