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海鳴り
第2章 過去へ──出会い
「あの道を左に曲がってまっすぐ歩けば学校です」


指差す方向を確かめて律子は頷いた。


「ありがとうございます」

「波浜へようこそ、帰る時には後ろ髪を引かれますよきっと…」

「そうですね」


律子は愛想笑いをしてバスを降りた。

歓迎の言葉にほっとしながらバスを見送り、深く息を吸い込むと磯の香りが鼻をついた。

湿気を含んだ温い風が躰にまとわりついてくる。

低い堤防の向こう側は漁港になっていて、漁を終えた船たちが静かに揺れているのが見える。


ここが私の町になる

後悔なんてしてはいられない


バス通りを左に曲がり歩道のない道を少し歩くと、すぐ右手に小さなスーパーが見つかった。

路地を覗けば数件の居酒屋、本屋、クリーニング店、郵便局が民家に紛れるように点在しているのが見える。


どうにか生活はできそう


律子はこの町に早く慣れようと、カバンを抱え直しては辺りを見回し足を進めた。

すれ違う主婦や老人達、軽トラックの運転手が次々と振り向いて律子の後ろ姿に目をやった。

正面に校門が見えてきた。


トントントントン…


垣根の向こう側に家の修理をしてる男が見える。

ねじり鉢巻のその男が、ふと振り向いて律子と目をが合わせた。




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