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第8章 海風

「…カズさんは小さい頃に両親が離婚して、父親に育てられていたらしいんですけど、…漁師だった父親が若くして海で亡くなってからは、叔父さん夫婦に引き取られて一緒に暮らしていたんです」

「……」


律子は黙って頷いた。


「そんな事私達はちっとも気付かない程カズさんはとっても明るくてカッコよかったわねぇ…」

「10才年上の私でも、カズさんの高校の頃の事ははよく知ってましたよ…。この店は町の人の噂話のたまり場ですからね」

「高校生の頃ですか？」

「あぁ、何だか懐かしい話……。…美佐子ちゃん…どうしてるかな…」


律子はいつも難しい顔をして人を寄せ付けない様に見える相沢の過去に、いったい何があったのか、知らない事は全て知りたい思いながら、今聞いたばかりの美佐子という女に嫉妬を感じていた。


「カズさんと美佐子ちゃんは町中誰もが知っている仲の良い恋人同士だったんです…ねぇ、春子さん」

「そう、幼なじみで同い年、高校も隣町までバスで一緒に通ってましたし、女子の間でも美佐子ちゃんならしょうがない、カズさんとお似合いだって…。
その頃の女の子達はみんな、二人を中心に恋の話に花を咲かせていましたよ、うふふ…」