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海鳴り
第8章 海風
春子は今そこに二人がいるかのように目を細めながら話し、亜紀はそれとは対照的に陰りのある横顔で俯いていた。
「漁から戻った叔父さんを手伝って、そのバイト代をデート代に…」
春子が微笑む。
「ふふ…そうらしいわね」
「大学は町を出て、働きながら奨学金でなんとか通っていたみたい」
「美佐子さんは?」
「美佐子ちゃんはご両親ともに役所勤めでちょっと裕福だったから、やっぱりここを進学してここを離れたわ…。
カズさんは、早く独り立ちして美佐子ちゃんと一緒になるつもりでいたんですよ」
「……それなのになぜ」
律子は、美佐子との将来を見据えた相沢の真面目さが、今でも違った形で相沢の中にあると感じていた。
それなのになぜ…
美佐子が続けた。
「大学二年の冬に、…叔父さんが急に倒れて…亡くなってしまったんです」
「…─っ…で、でも…」
だから何だというの?
そんな事はなんとでもなる、二人の気持ちさえ揺るがなければ
「新しく船を造ったばかりで…、…叔父さんはカズさんを漁師にしたかったんですね。船には自分の興吉という名前とカズさんの名前から1文字ずつ取って…」
「興和丸…」
「えぇ…」
「そして、叔父さんの遺した実の娘が、まだ高校生だった真理子さん…」
「…っ…」
「漁から戻った叔父さんを手伝って、そのバイト代をデート代に…」
春子が微笑む。
「ふふ…そうらしいわね」
「大学は町を出て、働きながら奨学金でなんとか通っていたみたい」
「美佐子さんは?」
「美佐子ちゃんはご両親ともに役所勤めでちょっと裕福だったから、やっぱりここを進学してここを離れたわ…。
カズさんは、早く独り立ちして美佐子ちゃんと一緒になるつもりでいたんですよ」
「……それなのになぜ」
律子は、美佐子との将来を見据えた相沢の真面目さが、今でも違った形で相沢の中にあると感じていた。
それなのになぜ…
美佐子が続けた。
「大学二年の冬に、…叔父さんが急に倒れて…亡くなってしまったんです」
「…─っ…で、でも…」
だから何だというの?
そんな事はなんとでもなる、二人の気持ちさえ揺るがなければ
「新しく船を造ったばかりで…、…叔父さんはカズさんを漁師にしたかったんですね。船には自分の興吉という名前とカズさんの名前から1文字ずつ取って…」
「興和丸…」
「えぇ…」
「そして、叔父さんの遺した実の娘が、まだ高校生だった真理子さん…」
「…っ…」