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海鳴り
第8章 海風
「あの子は、小さい頃からずっとカズさんを好きだったんだと思います。
カズさんが美佐子さんと付き合い出した頃から変わったんじゃないかと……真理ちゃんは中学生でしたけどね」

「……」

「カズさんにとっては当然、妹みたいなものですから…、ずっと…」

「でも、真理子さんは好きな人と結婚できたじゃないですか、子供だって…、それなのに…」


律子は今も家出を繰り返す妻に腹が立ち、自分の背後にいつも存在しているその影を攻撃していた。


「知っているんです」

「えっ?」

「カズさんが自分を見ていない事を知っているからですよ。……美佐子さんと愛し合ったままで別れ、夢を捨てさせたのは自分の家のせいだと知っているんです」

「…っ…」


律子はゆっくりと目を伏せる亜紀の横顔を見つめながら、それがなぜ家出を繰り返す理由になるのかを問いただしたかった。


「いつも待っているのかもしれませんねぇ…」

「なにを…」

「カズさんが迎えに来てくれるのを…」

「……」


亜紀の言葉は律子の心に突き刺さった。


真理子はいつも相沢の背中だけを見ていたのだろか
自分を見つめてくれる男になびき、本心は違うものを求め…


私のせいじゃない…





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