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海鳴り
第8章 海風
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波浜の町は穏やかな新年を迎え、律子は静かに一人で三が日を過ごした。

町に一つの小さな神社に初詣に出掛け、居合わせた子供達や父兄と新年の挨拶を交わし、にこやかに別れる。

律子はいつの間にか、学年を問わず多くの児童から親しみを込めて「律子先生」と呼ばれていた。

「くじらぐも」の暗唱隊はあれ以来、時折律子を囲んで自然発生し、賑やかに声を合わせながら校門をくぐっては、満足げな歓声をあげて解散を繰り返した。

子供からそれを聞かされた保護者が道に出てその様子を見守る姿は、それを含めて微笑ましい朝の風景として校門までの道のりを飾った。

律子は町に「律子先生は良い先生」と好意的に受け入れてもらい、前の学校で経験した保護者からの刺々しい言葉や視線から解放された。


この町が好き


家々に飾られた門松やしめ縄に新春を感じながら、律子は澄んだ青空を見上げた。

空も海風も、波の音も海鳥達も、静かな町に漂う潮の香りと共に親しげに律子に語りかけ、律子は持ってきた貝殻を耳に当てながら港へと足を向けた。

繋がれて微かに揺れ合う船を眺めながら突提を目指す。


「興和丸…、あけましておめでとう」


立ち止まり船に小さく声を掛けてから前に進むと、突提の先に、肩を落として座っている男の姿が見えた。




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