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海鳴り
第2章 過去へ──出会い
可愛らしい坊主頭の武が顔を真っ赤にして律子のカバンを持ち上げようとする。
「ンんーーッ…」
カバンは地面を引きずられズリズリと移動しはじめた。
「一緒に持ってもいい?」
頑張る武のプライドを傷つけないように律子が話しかける。
「いいよ」
ほっとした顔で了解する武に微笑み、「ありがとう」と言って持ち手の片方を掴んで持ち上げた。
律子だけに持たせまいと、武は持ち手を胸の辺りまで両手で引き上げる。
カニのように横歩きをする武に目を細めながら、律子はまたあの音を聞いていた。
ゴォーーーー……
胸に響くその音は理由もなく律子を怯えさせた。
「ねぇ武くん、…あのゴォーっていう音はなにかしら?」
「あれは海鳴り…、僕あの音怖いんだ」
「海鳴り…」
海風に乗り、時折ドォーンドォーンと底知れぬ重い響きを交えながら心まで揺さぶる海鳴りは、薄暗い空の下、カバンで繋がった律子と武の不安を煽(あお)った。
「よお武、先生見つけたか」
垣根からさっきの男が顔を出した。
「あ、父ちゃん!」
「重そうだな、よく頑張った、貸してみろ」
父親は優しい目で武の頭をゴリゴリと撫でながら律子を見て頷き、カバンを軽々と持ち上げて垣根の内側に入っていった。
「ンんーーッ…」
カバンは地面を引きずられズリズリと移動しはじめた。
「一緒に持ってもいい?」
頑張る武のプライドを傷つけないように律子が話しかける。
「いいよ」
ほっとした顔で了解する武に微笑み、「ありがとう」と言って持ち手の片方を掴んで持ち上げた。
律子だけに持たせまいと、武は持ち手を胸の辺りまで両手で引き上げる。
カニのように横歩きをする武に目を細めながら、律子はまたあの音を聞いていた。
ゴォーーーー……
胸に響くその音は理由もなく律子を怯えさせた。
「ねぇ武くん、…あのゴォーっていう音はなにかしら?」
「あれは海鳴り…、僕あの音怖いんだ」
「海鳴り…」
海風に乗り、時折ドォーンドォーンと底知れぬ重い響きを交えながら心まで揺さぶる海鳴りは、薄暗い空の下、カバンで繋がった律子と武の不安を煽(あお)った。
「よお武、先生見つけたか」
垣根からさっきの男が顔を出した。
「あ、父ちゃん!」
「重そうだな、よく頑張った、貸してみろ」
父親は優しい目で武の頭をゴリゴリと撫でながら律子を見て頷き、カバンを軽々と持ち上げて垣根の内側に入っていった。