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海鳴り
第9章 夕凪
律子は校長の後に続いて会議室に入り、長机を挟んで向かい合って座った。


「山下先生」

「はい」

「彼は6年生の池田慎吾くんです」

「はい」


校長の穏やかな声に律子の気持ちも落ち着いてきた。


「今日の事は彼ばかりが悪いわけではないんです」


律子は反論したい気持ちを堪えて話に耳を傾けた。


「池田くんのご両親は、彼が2年生の時に離婚しています。…どうやら以前からお母さんが男性と一緒にいなくなり、離婚は避けられなかった。…その結果、彼はお父さんと暮らしていました」


律子の頭の中で武と慎吾が重なった。


「最近お父さんが再婚なさって、新しいお母さんと暮らすようになったそうですが…、それまで彼はずっと本当の母親が会いに来てくれるのを待っていたんです、おそらく今もそうでしょう」

「………」

「いなくなったの母親に対して、親戚達がたびたび口にする陰口がずっと彼を傷つけていた。……相沢くんに彼が言った言葉ですよ」

「っ…」

「彼は耳にしてきた噂話で知った相沢くんの気持ちを察して、寂しいだろう、と話しかけたそうです。…相沢くんは、母親とはよく電話で話しているから寂しくない、お仕事が終わったら帰って来るんだと、嬉しそうに言ったそうです」


胸が痛んだ。




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