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海鳴り
第9章 夕凪
「武くん、お待たせしました」
律子が戻ると武はデスクに向かい真剣な面持ちで鉛筆を走らせていた。
「あ、律子先生」
武は慌てて隠そうとしたが、電話用のメモ用紙が数枚足元に落ちているのを見つけた。
『かあちゃんはやくかえってきてかあちゃんはやくかえってきてかあちゃんはやくかえってきてかあちゃん……』
線も枠もない紙に縦書きの幼い文字は斜めに歪み、大小ばらばらで不恰好だったが、力強く紙いっぱいに武の思いを訴えていた。
「武くん…」
律子はメモ用紙を拾いながら必死に涙を堪えた。
「言わないで」
「え?」
「律子先生お願い、父ちゃんにはケンカした事言わないで」
泣きそうな顔で武のつぶらな瞳が訴えてくる。
「どうして?」
「母ちゃんと僕の事を、悪口を、言われたから…父ちゃんがかわいそうだから…」
「……」
「それに僕もう大丈夫だから」
「武くん…お父さんの心配してるの?」
「先生お願い…」
「…わかった」
言わないわけにはいかない。武の一途なこの気持ちを。
律子はメモ用紙をそっと集めてポケットにしまった。
「本当?」
「えぇ」
「よかった」
律子が戻ると武はデスクに向かい真剣な面持ちで鉛筆を走らせていた。
「あ、律子先生」
武は慌てて隠そうとしたが、電話用のメモ用紙が数枚足元に落ちているのを見つけた。
『かあちゃんはやくかえってきてかあちゃんはやくかえってきてかあちゃんはやくかえってきてかあちゃん……』
線も枠もない紙に縦書きの幼い文字は斜めに歪み、大小ばらばらで不恰好だったが、力強く紙いっぱいに武の思いを訴えていた。
「武くん…」
律子はメモ用紙を拾いながら必死に涙を堪えた。
「言わないで」
「え?」
「律子先生お願い、父ちゃんにはケンカした事言わないで」
泣きそうな顔で武のつぶらな瞳が訴えてくる。
「どうして?」
「母ちゃんと僕の事を、悪口を、言われたから…父ちゃんがかわいそうだから…」
「……」
「それに僕もう大丈夫だから」
「武くん…お父さんの心配してるの?」
「先生お願い…」
「…わかった」
言わないわけにはいかない。武の一途なこの気持ちを。
律子はメモ用紙をそっと集めてポケットにしまった。
「本当?」
「えぇ」
「よかった」