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海鳴り
第9章 夕凪
「武くん、さっきケンカした6年生の事知ってる?」

「うん、時々話したりして仲良しだったのに…あんなヤツ…」


武の顔が曇る。


「じつは…慎吾くんね、大好きなお母さんと会えなくなってしまったの」

「…そうなの?」


驚いて見開かれた瞳が律子を見つめた。


「…武くんに酷い事を言ってしまったって凄く後悔してて、謝りたいって…」

「…だから僕に母ちゃんがいなくて寂しくないか聞いたのかな…、
僕が、母ちゃんは僕が大好きだから絶対に帰って来るって言ったから……羨ましかったのかな…」

「武く…」

「先生、慎吾兄ちゃんケガしてない?……僕殴ったんだ」

「大丈夫だと思うわ」

「どこにいるのかな」

「校長室よ、一緒に行く?」

「うん…。
僕、今度母ちゃんに寂しいって言ってみようかな」

「武くん…、言った事ないの?」

「うん、いつも聞かれるけど僕寂しくないって言ってた」



どうして

なんで子供が気を使うの…



「ちゃんと言いなさい。早く帰ってきてって、ちゃんと言わなきゃ」

「母ちゃんお仕事忙しいみたいだからな…、でも、今度言ってみる」


武は明るい表情で律子と廊下を歩いた。




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