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海鳴り
第9章 夕凪
二人が職員室まで来た時、校長室から慎吾と校長、後から駆け付けた慎吾の担任森が出てきた。

お互いに近づいて傍まで来ると、慎吾が武に歩み寄った。


「武くん、さっきは酷い事を言ってごめんなさい」


慎吾がすまなそうに武を見つめて俯いた。


「うん、僕平気だよ。
慎吾兄ちゃん、ケガしてない?」


武が慎吾の顔を覗き込んだ。


「けっこう痛かった」


「ほんと? ごめんなさい」

「ウソだよ」


慎吾がニコッと照れくさそうに笑った。


「エヘヘ」


武も笑った。


「よし、それじゃあ二人共教室に戻りなさい、授業だよ」


校長が二人を促した。


「武くん一緒に二階まで行こうよ」

「うん」


慎吾が差し出した手を握り、一緒に廊下を駆け出した。


「こらこら走るなよー」


森が笑いながら声をかける。


「はーい」
「はーい」


嬉しそうな後姿が廊下を曲がって見えなくなった。

律子は子供の真面目さと素直さに胸を打たれた。そして、この校長の元にいられた事に感謝した。


「さあ、先生方も授業の続き、しっかりお願いしますよ」


校長の声に二人の教師は「はい」と気持ちを切り替え、授業の準備をしてそれぞれの教室に向かった。




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