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海鳴り
第9章 夕凪
律子は家が近づくにつれ、痛くなる胸に手を当てて「静まれ、静まれ」と言い続けた。

見慣れた表札を確認してチャイムを鳴らす。

インターホンからの応答はなく、暫くすると引き戸が開いて相沢が顔を覗かせた。


「あ、あの…。
こんにちは、家庭訪問に伺いました」

「あぁ…、どうぞ」


他人行儀な挨拶が更に緊張を強め、律子は相沢から目をそらして中に入った。

後についてリビングに入り、勧められてソファに座る。

向かい側に座った相沢が黙って差し出すお茶に「お構い無く」と言い軽く頭を下げた。


「あの…、さっそくですが、ご家庭での武くんの様子はいかがですか?」

「…楽しくやっているみたいだ、新しい友達も出来たみたいだし、よく遊んでもらってる」

「お友達?」

「確か…、池田慎吾っていう6年生…」

「えっ、本当ですか?」

「嘘は言わねぇ」

「…わかっています。……あの、じつは先日、慎吾くんと武くんが…」

「ケンカしたらしいな」

「あ、…はぃ、ご存知だったんですか」

「その子の両親が謝りに来たんだ、慎吾と一緒に」



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