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海鳴り
第10章 高波
どれ位時間が経ったのだろう。

いつの間にか部屋の中は真っ暗になっていた。

電線がヒューヒューと風に震えて鳴いている。

外に出て海鳴りを聴く。



ゴォーーーーー………



律子は何も持たずに歩き始めた。

ポツリポツリと雨が落ちてくる。

雨粒が涙と一緒に流れ落ち、頬に幾筋もの跡を付けていった。


閉店したスーパーの前を通り、バス通りを歩く。
滲んで見える港の明かりを目を擦りながら見つめ、時折通る車のヘッドライトに顔を背けながら、律子はただ歩き続けた。


見慣れた家が他人の家に見える。


ピンポーン…


迷いつつチャイムを鳴らした。


ピンポーンピンポーン…


扉に手を掛けて横に引いてみたが開かない。


ドンドンドンドン…


「和男さん、律子です…、お願い…、すぐに帰りますから…」


ドンドンドンドン…


「うぅッ…お、お願い、…ぅッく…うっうっ、和男さん…」


強くなる風とどしゃ降りの雨が律子の声をかき消してしまう。


ドンドンドンドン…


「律子…」


律子はハッとしては振り向いた。


「…和男さん」




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