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第10章 高波

目の前に傘をさした相沢が立っていた。


「……」

「ごめんなさい、私…」


律子は我に返ってｸﾞｼｬｸﾞｼｬの顔を手で拭った。


「…武を送ってきた」

「そ、そうですか…」


相沢の顔を見ることができない。

後悔しはじめた。



何をしに来たのだろう
馬鹿みたい…



「ごめんなさい、帰ります」


律子は俯いたまま相沢の横を通り過ぎた。


「律子…」

「…っ…」


律子の腕を相沢の手が掴んだ。


「律子…」

「来るつもりは、なかったんです。
帰ります、ご、ごめんなさ…」

「行くな…」

「っ…」



ｻﾞｧーーーーー……



傘が地面を転がり逆さまになって止まった。

降りしきる雨は抱き合う二人の上に容赦なく打ち付け、外灯はﾁｶﾁｶと点滅を繰り返した。



ｻﾞｧーーーーー……



「私を…ぅくｯ…呼んだでしょう？
ﾋｸｯ…呼んだでしょう？
ｸﾞｽｯ……ち…違う？」


相沢の腕の中で律子は甘えた。


「あぁ、呼んだ。
律子…、よくわかったな」


大きな手が律子の頭を抱き寄せた。


「うんっ、うん……ﾝｸﾞｯ…」


律子は子供のように何度も頷いた。