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海鳴り
第10章 高波
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ゴールデンウィークが過ぎ、町は朝から暖かな陽射しに包まれていた。


「母ちゃん忘れちゃったのかな…」


登校途中の賑やかなお喋りの中、武が独り言のように呟いた。

連休前は「母ちゃんが帰って来るんだよ、美希も一緒だよ」と妹との再会も楽しみに声を弾ませていた武は、時々顔を曇らせるようになった。


「忘れたりしないわよ、きっと忙しいんじゃないかな」

「だって、電話も来ないんだよ」


待ちわびている武に安易に期待させる言葉を掛けて良いものかと迷い、律子は無責任な約束をした真理子に腹を立てていた。


「待ち遠しいわね、でも楽しみよね」

「うんっ」





相沢とは会っていなかった。

律子は相沢が眠りに付いた頃、港を散歩するようになった。

オレンジ色の外灯に映し出されたそこは波の音や船の軋み、潮の香りや風のそよぎが一つの風景になって、いつも律子を迎えてくれた。

相沢にもらった貝殻を手に突堤まで歩き、相沢が座っていた場所に座る。

こぼれる涙はそのままに貝殻を耳に当て、もう片方の耳は手で塞いだ。


遠くから響いてくるわずかな呼び声は律子の心を慰めた。

潮風が髪を撫で、頬の涙を乾かしてくれる。

ただ温もりだけが足りなかった。




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