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海鳴り
第10章 高波
「真理子さん…」


春子の声がした。



「あらら、相変わらずね…ふふ…」

「ほんと…」

「水商売でもしてたのかしら」

「そりゃそうよ」

「えー、あれが武くんのお母さんなの?」

「うっそー、芸能人みたい」


母親達の冷めた言葉と子供達の驚きの声。

律子は何も言えず、ただその女に圧倒されていた。

海の匂いがするこの町に、香水をぶちまけたような違和感。

風で前に流された髪を赤いマニキュアの指が掻き上げる。

顔見知りなのだろう、児童の父親に声を掛けられ、一礼をする度に両腕の間で谷間が盛り上がる。

それが相沢の妻だった。


武が女の腰に抱きついて顔を見上げている。

きっとキラキラと瞳を耀かせているだろう。

武の頭を撫でながら、女がサングラスを外した。

すっと通った鼻筋、細い眉、ブラウンのアイシャドーが濃く塗りつけられ少しつり上がった切れ長の目。

その目が武を見て細くなり、赤い唇の両端が上がった。



和男さん…



助手席から小さな女の子が顔を覗かせた。



いや…



「あれが美希ちゃんだよね」


興味津々の母親達をよそに、子供達は飽きてしまったらしく窓から離れて遊び始めた。



あの人はいや





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