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海鳴り
第11章 引き潮
帰り支度をしている律子に校長が話しかける。


「いよいよ明日は終業式ですね」

「はい、お陰様でなんとか無事に明日を迎えられそうです」

「どうでしたか、この小さな町は」

「……はい、ここへ来る事ができて本当によかったと思っています。
何もかもが、毎日が貴重な勉強でした」

「それはよかった。
これからも教師を続けていかれるにのでしたら、教え子は何千人にもなりますよ」

「…そうですね」

「でも子供達にとっては律子先生は一人だけです」

「はい」

「しっかりと向き合ってあげてくださいね」

「はい、ありがとうございます」


律子は立ち上がって一礼した。


「戻っていらっしゃる千恵子先生は、きっと子供達から先生の事をたくさん聞かされる事でしょう」

「えっ?」

「にぎやかな暗唱隊を引っ張っていた先生は、みんなの心から消えませんから…、
それじゃ、お疲れ様」

「……お疲れ様でした」


覚えていてくれるのだろうか

たった1年でいなくなる私を

風が通り過ぎるように、忘れてしまうのではないだろうか


律子は校舎の外に出て校門に目を向けると、何も考えずにズカズカと校庭を突っ切って入って来る1年前の自分が見える気がした。


教師として、少しは成長できたのだろうか…







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