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海鳴り
第11章 引き潮
一人分の食材でも、なるべく生ゴミが出ないようにと考えながらカゴに入れてレジに並ぶ。


「律子先生、いつここを発つんですか?」


春子がレジを打つ手を止めずに話しかけてきた。


「明後日には」

「えっ、そんなに早く」


春子の手が止まった。


「お世話になりました」

「こちらの方こそ翼が散々お世話になって…」


春子の顔を見ると泣きたくなる。
律子は黙って会計を済ませ「いつも翼くんと武くんには元気を貰いました」と笑顔で答えた。


「いつでも遊びに来てください、大歓迎ですから」

「ありがとうございます、お世話になりました。では」


帰る道すがら声を掛けられ、いつもより丁寧に挨拶を交わす保護者達を後にしながら、少しずつ自分がこの町を脱ぎ捨てていくような気持ちになっていく。


きっと通りすがりの一時のバカンスに過ぎないのだ


新しい靴に履き替えるように、気持ちも切り替わり始めている。

律子は身体を休める事なく荷造りを終え、殺風景になった部屋の床や壁、ガラスを磨き、冷蔵庫や空になった靴箱を拭いた。

亜紀からは小さな『送る会』を開くとの申し出があったが多忙を理由に断った。

律子は誰の前でも、自分の前でも泣きたくなかった。

淡々と過ごし、あっさりといなくなりたかった。




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