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海鳴り
第2章 過去へ──出会い
「あの、相沢さん」


父親が振り向いた。


「いろいろとありがとうございました。
あの、直也さんにもよろしくお伝え下さい。 さっきはお礼も言えなくて…」

「あぁ、わかった」


そっけない返事で歩き出す父親とは対照的に、笑顔でバイバイ と手を振る武に微笑んで手を振り返し、律子は我が家のドアノブに手を掛けた。


「………」


またあの音が律子を不安にする。

一人きりになるとより低く胸に迫るその轟音は、近づいてくる雷鳴のようにも聴こえ、律子は慌ててドアを閉じた。


「もう外には出ない」


静まり返った家の中でほっとしながら部屋を見渡すと、段ボールが3つと寝具類をまとめた大きな紙包みが1つ、玄関から伸びた廊下に置かれていた。

ダイニングキッチンとバス、トイレ、洗面所、広めのリビング、他に部屋が2つ。

食器棚、冷蔵庫、電子レンジ、テーブル、テレビ、ベッド、エアコン、ソファ、クローゼット、タンス…

清潔に保たれた内装と家具類にほっとしながらも、実家暮らしをしてきた律子にとって一人では広すぎる住まいだった。


「あ、そうだ冷蔵庫…」


相沢の言葉を思い出し冷蔵庫の中を覗くと、皿に盛られた鯵とイカの刺身を見つけた。

急に食欲がわいてきた。


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