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海鳴り
第11章 引き潮
まだ泣かない……
あの山道を登ってこの町を見下ろすまでは
カーブを曲がって、この町が見えなくなるまでは
律子はバスの中程まで戻り、もう見る事のないこの町の海を見つめた。
さようなら大好きな町
大好きな海…
バスは山道を登り始めた。
「ちょっと揺れますよ」
運転手の言葉に相槌を打ちながら前の席のシートに捕まり、通り過ぎる木々の隙間からまた海を眺めた。
「…──っ!」
眼下一面にきらきらと広がっている海の一点、その点を律子は見続けた。
「止めて!…バスを止めてくださいっ」
「はいよ」
運転手は律子の席から海がよく見えるようにバスを止めた。
あぁ…
船だ
港の方向から引き波を立てながら、沖へ向かわずバスを追うように進む船が見える。
和男さん…
和男さんの船
見間違える筈がない
興和丸…
和男さん…
微かに汽笛が聴こえた。
「…ッ…」
律子は堰を切ったように泣き出した。
「ううっ…」
姿は見えない
でもどんな顔をしているのかはわかる
きっと愛想のない顔をしてる
そして今私がどんな顔をしているのか、何を想っているのかも全部知っている筈だ
預けてきたから
全部和男さんが引き受けてくれたから…
あの山道を登ってこの町を見下ろすまでは
カーブを曲がって、この町が見えなくなるまでは
律子はバスの中程まで戻り、もう見る事のないこの町の海を見つめた。
さようなら大好きな町
大好きな海…
バスは山道を登り始めた。
「ちょっと揺れますよ」
運転手の言葉に相槌を打ちながら前の席のシートに捕まり、通り過ぎる木々の隙間からまた海を眺めた。
「…──っ!」
眼下一面にきらきらと広がっている海の一点、その点を律子は見続けた。
「止めて!…バスを止めてくださいっ」
「はいよ」
運転手は律子の席から海がよく見えるようにバスを止めた。
あぁ…
船だ
港の方向から引き波を立てながら、沖へ向かわずバスを追うように進む船が見える。
和男さん…
和男さんの船
見間違える筈がない
興和丸…
和男さん…
微かに汽笛が聴こえた。
「…ッ…」
律子は堰を切ったように泣き出した。
「ううっ…」
姿は見えない
でもどんな顔をしているのかはわかる
きっと愛想のない顔をしてる
そして今私がどんな顔をしているのか、何を想っているのかも全部知っている筈だ
預けてきたから
全部和男さんが引き受けてくれたから…