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海鳴り
第12章 それから
──────


バスから見える景色が、律子を過去へ戻そうとしていた。

どんよりとした空と灰色がかった海が胸の鼓動をより一層響かせる。

通り過ぎれば記憶にさえ残らないような小さな町。



『──波浜町、波浜町、停車します』



バスを降りると懐かしい匂いの海風が律子の髪を撫でた。

少し歩いて左に曲がる。

律子は初めて来た町のように辺りをキョロキョロと見回しながら歩いた。


「……ッ…」


春子がいたスーパーがコンビニに変わっている。


こんなに狭い通りだったっけ…



民家があった筈の場所が所々、空き地になって草が生い茂っている。

薄暗い空のせいか、寂れた町には一層物悲しさが立ち込めていた。


「…あ…」


律子は一度通り過ぎた場所に戻って足を止めた。

4世帯二階建てのアパートが建っているそこにはもう、昔を偲ばせるものは何もなかった。

垣根も、その向こう側にあった筈の家も。

24年の月日が流れ、記憶だけが取り残されている。

かつて子供達と歩いた道を歩き、新しくなっている校門から校舎を眺めた。

児童数が減少し複式学級になったという波浜小学校も、校舎の老朽化が目立ってみえた。


それでも子供達はここで駆け回っているのだろう




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