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海鳴り
第12章 それから
私が住んでいた家
私がいた学校
私が歩いた道


かつて

かつて

かつて…


もう私の居場所じゃない



律子はバス通りに向かって歩き出した。


『アザミ』があった路地に曲がろうとして思い直し、コンビニを通り過ぎて通りを渡り港に足を向けた。


「………」


ひしめき合っていた漁船も今は数える程しかいない。

あの頃の活気に満ちた風景は、今や思い出の中だけで輝いていた。

海に突き出した突堤を目指しながら、律子は興和丸を捜した。

見つからない。

あるはずのものが消えた戸惑いは、記憶さえも曖昧にしてしまいそうで、律子は慌てて突堤へと足を向けた。

釣具を片付けている人、犬の散歩途中の人、海を眺めている人…

その傍を通り過ぎ先端にたどり着くと、バッグから貝殻を取り出した。


「和男さん…、私来てしまいました」


貝殻に話し掛ける。


「私、結婚したんです。娘もいるんですよ。もう17になるんです。
私、すっかりおばさんになってしまって…。
でも、ずっと、ずっと幸せにしていました。
あなたは?……あなたはどうでしたか…」



ゴォーーーーー……



「和男さん、和男さんが持っていて…」


律子は貝殻を海に投げた。




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