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海鳴り
第12章 それから
風が頬を撫でるように涙を乾かしていく。

海を見つめていた律子の目の前に、船団を引き連れた興和丸が近付いて来る。


「…っ…」


大漁旗がはためく船の舳先で前を睨み、腕組みをした相沢が、律子を見つけて小さく頷く顔がはっきりと見える。


あぁ…
帰ってきた


涙が視界をぼやけさせる。律子が慌てて涙を拭った時、海は何事もなかったかのように静かなうねりを繰り返していた。




「ねぇアンタ、見掛けない顔だから教えてあげるけどさ、じきに海も空も荒れ出すから早く帰った方が身のためだよ」

「…は、はい、ありがとうございま…」


そこにはジーンズに襟のない白いシャツ、赤いカーディガンを羽織った細身の女が立っていた。

その顔には見覚えがあった。

すっと通った鼻筋、細い眉、ややつり上がった切れ長の眼は目尻にシワが目立ち、肌には張りがなくなっていたが、真っ赤に塗られたその唇は間違いなく、あの真理子だった。


「海鳴りが聞こえるだろ?…ほら」

「は、はい」


豊満だった躰は見る影もない。


「漁師にだって手におえないんだから……あ、ちょっと手を貸してくれる?」


真理子がタバコをくわえ、ライターで火を付けようとするのを律子は手で風を遮って手伝った。


フゥー…


「ありがと」




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