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海鳴り
第12章 それから
真理子がぽつりと呟いた。
「さっきその先に見えた気がしたんだよね…」
「え?」
「ここに戻って来た旦那の船…。
アハハ、変だよね…ごめんごめん」
「…そうなるといいですね」
「ありがと。
なんかアタシひとりで調子に乗っちゃって、初めて会った人にくだらない話聞かせてるよね」
律子は首を振った。
「そんな事ありません。…あの、私そろそろ」
「あ、そうだ…アタシね、コンビニの路地をちょっと入った所で『アザミ』っていう古いスナックやってんの。気が向いたら飲みに来て」
「…はい。では」
律子の会釈を無視して真理子はまた海を見つめていた。
律子はその小さな背中に深く頭を下げた。
さようなら真理子さん
さようなら和男さん…
律子は振り返らずに来た道を引き返した。
海鳴りは律子を引き止めなかった。
響き渡る轟音は、今では真理子に、夫を見送った日の事を切なく思い出させるのだろう。
律子は顔を上げ、海に背を向けて歩いた。
バスに乗ってからも、もう振り返らなかった。
バッグから携帯を取り出しメールを打つ。
『紗香と二人、5時半には行けそうです』
すぐに返信があった。
『了解。
待ってるよ
気をつけておいで』
律子は携帯をしまい、まっすぐに前を見つめた。
帰ろう、私の居場所へ
「さっきその先に見えた気がしたんだよね…」
「え?」
「ここに戻って来た旦那の船…。
アハハ、変だよね…ごめんごめん」
「…そうなるといいですね」
「ありがと。
なんかアタシひとりで調子に乗っちゃって、初めて会った人にくだらない話聞かせてるよね」
律子は首を振った。
「そんな事ありません。…あの、私そろそろ」
「あ、そうだ…アタシね、コンビニの路地をちょっと入った所で『アザミ』っていう古いスナックやってんの。気が向いたら飲みに来て」
「…はい。では」
律子の会釈を無視して真理子はまた海を見つめていた。
律子はその小さな背中に深く頭を下げた。
さようなら真理子さん
さようなら和男さん…
律子は振り返らずに来た道を引き返した。
海鳴りは律子を引き止めなかった。
響き渡る轟音は、今では真理子に、夫を見送った日の事を切なく思い出させるのだろう。
律子は顔を上げ、海に背を向けて歩いた。
バスに乗ってからも、もう振り返らなかった。
バッグから携帯を取り出しメールを打つ。
『紗香と二人、5時半には行けそうです』
すぐに返信があった。
『了解。
待ってるよ
気をつけておいで』
律子は携帯をしまい、まっすぐに前を見つめた。
帰ろう、私の居場所へ