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海鳴り
第12章 それから
「もしもし…」


声が震える。


『先生…律子先生ですか?』

「えぇ、武くん?」

『先生っ、父が帰ってきました!…帰ってきたんですっ。
1ヶ月ちょっと前、直也さんが、直也兄ちゃんの船が父を海の底から引き揚げたんです』

「えっ…」

『港でその話を聞いた母は、よく調べてもいないのに絶対父だと言い張って僕に知らせて来たんです。
だから家族みんなでDNA鑑定して貰ったんです、僕と妹は親子鑑定、母は父といとこですから、それもちゃんと調べてもらいました』


電話の向こう側が騒がしい。


「武くん…よく聞こえないの…もう少し大きな声で…」

『あ、はい、すみません、…見つかった遺体は残念ながら身体の一部だけだったんですけど、鑑定の結果は間違いなく父だったんですっ…』


一段と大きな声で武が答えた。


「あぁ…よかった、…よかったわね武くん…」


律子は涙を堪え、思わず口元を押さえた。

武の興奮した声は続いた。


『先生、僕いま波浜港にいるんです…、知ってますか先生、海から遺体を引き揚げた船は、必ず大漁に恵まれるって…』


周りの歓声が聞こえる。


『船が見えたぞー』


『今朝漁に出た直也兄ちゃんの船にあやかろうと、波浜の漁船だけじゃなくて隣町の漁港からも船が集まって来たらしくて…あ、待って…ちょっと待って…」




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