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海鳴り
第3章 ぬくもり
「これ…」


相沢が懐中電灯を律子に差し出した。

律子は礼を言いながらそれを転ばないように床の隅に置いた。

相沢が来てくれなかったら今頃どうなっていただろうかと、改めて胸を撫で下ろす。
この様子では外を歩く事も大変だった筈だ。


「じゃあ俺は帰る」


相沢が長靴を履き立ち上がった。


「あの、今外に出るのは危険じゃないですか?
もう少し風が弱まるのを待った方が…」


律子も立ち上がり心配そうに相沢の背中を見つめた。


「どうにかなる」


律子に向き直って頷くと、相沢はびしょ濡れのカッパを手に取った。


「でも、怪我でもしたら──…あ、やだまた…」


明かりが消えた。


「じっとしてろ」

「か、懐中電灯を…、きゃッ」


律子が足を踏み出したとたん、濡れた床に足を取られた。


「どうしたっ、わっ…」


前のめりに傾いた律子の躰は三和土(たたき)に立っている相沢の胸に勢いよく飛び込んだ。


「っ!」

「っ…」


足先だけが辛うじて床にとどまり、律子は抱き止められた瞬間に相沢の背中を両手で抱きしめていた。


「ご、ごめんなさい」


かすかに潮の香りがした。


「……そんなに俺を引き止めたいのか」




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