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海鳴り
第3章 ぬくもり
相沢の分厚い肩口に頬を押し付けている律子の耳に、落ち着き払った低い声が響いた。


「ち、違います…」

「女の方から抱きつかれたのは初めてだ」


律子を支えた相沢の手はすぐに律子から離れた。


「だ、だから違いますっ」


焦った律子が離れようと躰を引いてみたが力が入らない。


「あの…、一歩前に寄ってもらえませんか?」


床に残っている足先が離れないように必死で踏ん張りながら、律子は相沢の両肩にしがみついた。


「これはいろいろとヤバい状況だな」

「は、はい、あの、足が…落ちそうです」

「いや、俺にとっても、……いろいろと…、ヤバい状況だ…」

「えっ?」


どういうこと?


「っ!」


律子は思わず息を飲み込んだ。


「ふっ、冗談だよ、ガキに興味はねぇ」

「わ、私は別に…」


触れ合った肩と鎖骨、胸の辺りに相沢の体温を感じる。

それは律子を支えるぐらいではびくともしない男性的な逞しさを伴っていた。

暗闇の中、律子はなぜか強くなるばかりの胸の鼓動が相沢に伝わらないようにと願った。


「ちょっとあんたの躰に触るぞ」

「えっ…ちょっ、ちょっと待ってください、…えっ…、なに、き、キャーーッ!」




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