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海鳴り
第1章 訪問者
「ご様子は…」

「お陰様でもうすっかり良くなりました」

「それはよかった」

「ありがとうございます。 ご心配お掛けしました。 明後日には退院出来そうです」

「一安心ですね。それにしても腸閉塞なんてねぇ…私も以前ポリープを取った事があるから気を付けないといけないな」

「そうですよ、校長先生、暴飲暴食はおやめください」

「ハハハ…気を付けます。ご主人様によろしくお伝え下さい」

「はい、ありがとうございます」


校長室へ向かう後ろ姿に一礼し、席に着いた律子は引き出しから赤ペンを取り出した。

月曜日に返却するひらがなの書き取りプリントにまるやハナまるを付け、間違えている字は正しく書き直す。

まだ幼くかわいい文字は昨年までの4年間、高学年ばかりを受け持っていた律子にとって新鮮で懐かしかった。

一通りの採点を終えて日誌を付け、授業で使用する算数セットの確認や図工で使う折り紙などを準備して帰り支度を始めた頃、事務員の坂本良枝が職員室を覗いた。


「矢野先生」

「…はい」


律子を見つけた坂本が微笑みながら近づいて来る。


「昔受け持たれた生徒さんが訪ねてみえてます」

「昔? …お名前は」




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