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海鳴り
第3章 ぬくもり
「………」

「………」

「風が強いな」

「…えぇ…」


二人はドアに向けられた光の輪を見つめていた。


「あの…」

「………」

「海鳴りって…なんですか?」


律子は海からも空からも襲い掛かってきそうなあの轟音を思い出した。


「…沖が荒れると…波が砕ける音が風に乗って陸地まで運ばれてくる…、それが海鳴りだ…」

「………」

「それでもまだ目の前の海は静かで、空は厚い雲に覆われてる…。
海鳴りは、空が荒れる知らせだ」

「…飛行機が飛んでいるのかと…」

「あぁ…。風向きによっては晴れる時もあるんだ…でも今日のはいただけねえ」

「海鳴り…」


律子は膝を抱えて目の前のドアを見つめていながら、沖の方で砕け散る巨大な波の壁と、手が届きそうな場所にある黒く重い雲が見えるようだった。


「陸(おか)が荒れだすと音がかき消されて聞こえなくなる…」

「………」

「…怖いのか」


相沢が律子を見た。


「いえ、べつに」


律子は小さく首を振った。




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